[イタリア軍事航空史博物館]

-Museo Storico dell' Aeronautica Militaire Italiana-

 

カプロニCA33重爆撃機

 

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平成12年5月22日、私がブラッチャーノ湖畔にあるこの安っぽい博物館に訪れるのは、

二度目になるはずであった。ローマの北30キロほどにある風光明媚な

行楽地で、さらに北には古城がみえる。性懲りもなく、

私はまたイタリアの木製機をみたくなったのだ。

 

    水上機みたいだけど、ぜんぜん正体がわからん。なんでしょう?

 

が、イタリア人のいいかげんさはそれを許さなかった。

バス停にいたイタリア親父に

「私はブラッチャーノにある飛行機の博物館にいきたい。どの

バスに乗ればいけるのだ?」

と下手な英語で聞いてみた。すると親父はうれしそうに、

「目の前のこのバスがそうだ。表示板に書いてある。」

親父はバスの正面上方を指差していった。

確かに「Bracc」と、略した電光掲示板がある。

これは渡りに船とばかりに、親父に礼をいってバスに乗り込んだのだが、

この親父が曲者だった。

 

 

    正体不明の複葉水上機。金属製らしい。

 

 

バスは確かに、七年前にいった道をはしった。私は念のために、

バスの運転手に

「私は航空博物館でおりたい。ついたら教えてくれ。」

と頼んだ。というのも、イタリアのバスは車内放送というものが

ながれないのだ。つまり、乗客は次の停留所がどこなのか、

つねに把握しておかなけらばならない、ということなのだ。

運転手は何か面倒くさそうに答えた。私は彼が

「了解した」

と答えたと思った。このグラサン運転手もまた曲者だった。

 

 

    マッキM.39。「紅の豚」に出ていたシュナイダー・レーサー。

 

 

半時間ほどでつくはずの博物館の門につかない。

やがて時計は一時間を越えた。

博物館からみて、ローマと反対側の古い城跡にはいっていく。

「まずい」

私は運転手に詰問した。グラサン野郎は

「俺は英語がわからない」

といっているようだ。それなら早く言え、このイタ公。

私が心で罵っていると、すぐ後ろの席にいた白人のおばあさんが、

みかねて英語でこういった。

「そこは行き過ぎた、あなたは路線をまちがえたのよ」

 

 

  同じくシュナイダーレーサーのマッキM.72。レシプロ水上機の最高速度機。

 

 

なんてこった。私は人生でそう何回もないチャンスをのがしてしまった。

いったん降りて切符をかいなおしたかったが、切符は

どこに売っているのかわからないし、時間もそんな余裕を

ゆるさない。グラサン運転手は非情にも

「はやく降りて引き返せ」

といっているようだ。そうだ、お前のいうとおりだ。

貴様のあいまいなイタリア語を鵜呑みにした私も悪かった。

 

    冒頭のカプロニ重爆。ごらんのとおり帆布張りの双胴である。

 

 

私は泣く泣くローマ市内に引き返した。

あとで冷静に考えると、切符はその辺のタバコ屋に売っている

はずだったのだ。博物館でも売っているにちがいない。

まあしかし、間違えてしまったその時点で気力は

尽きてしまっていた。

一度いったくらいで万全だと思い上がっていた私が

おろかだったのだ。ばかだ。私はばかなのだ。

 

 

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   CRDAカントZ506。でっかい木製の三発双フロート機。

 

私の失敗談を綴っていてもしょうがないので、ここからは

できるだけ詳細に博物館までの行き方を報告しよう。

切符の買い方や乗り物の乗り方は、各種ガイドブックを参考に。

私が説明するよりはるかにわかりやすいし、一冊携行しておけば安心だ。

とくに、「こまったときの一口イタリア語」

なんかが載っているのがいい。

 

   ムスタングみたいなフィアットの副座機。

 

まず、ローマ市内に着く。これは旅行会社にまかせよう。

 

   IMAM Ro43。

 

バス・タクシー・あるいは地下鉄で、レパント[Lepanto]という

地下鉄の駅まで行く。

タクシーが一番簡単で確実だ。

地下鉄で行くなら、A線に乗って、オッタビアーノ[Ottaviano]方面に向かおう。

駅に着くごとに、そこの駅名を見ておかないと、前述のとおり車内アナウンスが

まったくない。ま、地下鉄は乗り越しても折り返せばいいが。

バスはやめておこう。日本でもそうだけど、

複雑すぎてすすめられない。

 

    ナルディFN305、高等練習機。後ろはサボイア・マルケッティSM.79。

 

[Lepanto]駅に着いたら、ねんのため地上にでてみよう。

地上には青いバスがならんだターミナルがある。

そしたら、丸にMの字がある看板(地下鉄)の階段をおりるのだ。

そこに切符売り場がある。

 

   超小型オートジャイロ。全高160cmくらい。上のでかい尾部にはSM82と書かれている。

 

切符売り場にはたいていおっさんがいる。

「ブラッチャーノの博物館行きの切符をくれ」

というと、

「往復か?」

と聞いてくる。当然、往復分買わないとホテルで寝られなくなる。

何リラだったか忘れたが、往復で三百円くらいだったとおもう。

 

 

    高等練習機かなあ。よくわからん。

 

そこらへんの青シャツの運転手らしき人に

「博物館行きはどのバスか?」

と、かならずイタリア語で聞くこと。イタリア人の

中には、ワン・ツー・スリーも通じないのがいる。

さあ、指示されたバスに乗ろう。

 

 

   マッキMC.202戦闘機。機首にバラッカのサイン。横のイボつきカウリングはMC.200.

 

乗ったらば、再び運転手に

「博物館に着いたらおろしてくれ」

と、かならずイタリア語で言う。

繰り返すが、下手な英語は通じない。

 

  フィアットCR.32戦闘機。カッコイイ。

 

イタリアの交通機関はだいたい日本の半分以下の運賃しかかからない。

お金のある人は、いっそタクシーで博物館までいけばいい。

多分、片道五千円もしないはずだ。

帰りはバスにすりるしかないが。

 

  SVAシリーズ機。1920年に107日かけて日本まできた。

 

 ▼ 

博物館前でおろしてもらったら、坂をくだって湖畔の門をくぐろう。

左手に門衛がいる。たぶん下っ端の兵隊だ。ここは

軍が管理する公共施設で、入場無料なのだ。

しかし、パスポートの掲示をもとめられる。持っていないと

門前払いをくうので、必携しておくこと。

兵隊がスケベだったら、無修正のエロ本も見せてくれたりする。

興味のあるひとはよくみせてもらおう。

 

  なんだかわからんが入口にあるきれいな高翼機。翼が異常に厚い。

 

 

はいったらば、思う存分飛行機を見よう。簡単な食堂なら

あるけど、うまいパスタを腹いっぱい、などとは思わないほうがよい。

疲れたら湖をながめつつ、屋外展示機の翼の下で草に腰をおろすのもよかろう。

ほんとうに景色のいいところなのだ。

開館時間は九時から十六時まで。夏場は二時間延長する。休館日は月曜日。

写真はオッケーだとおもうけど、三脚をたてるのは遠慮しておこう。

博物館にかぎらず、観光地では三脚をきらう。床が傷むからだ。

私は三脚を立ててタイマー撮影して注意されたような気がする。というのは、

イタリア語なので、何にたいしておこられているのか

よくわからなかったのだ。

写真をみておわかりのとおり、館内は非常にくらい。おまけに

たいへんほこりっぽくて狭い。つまり、予算がすくないのだ。

ストロボをもっていくか、ASA400、あかるめの広角レンズをつかおう。

見終わったら門衛に「チャオ」とかいって門をでよう。

てくてく坂を登って、バス停でバスをボーっと待つ。

イタリアのバスは時刻表がない。だいたい三十分くらいで

バスが来るはずだ。運が良ければすぐ乗れる、というわけだ。

 

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ローマという街は非常にきたない。天王寺みたいである。

ポンコツ自動車がそれに拍車をかけているが、

二度目にいったときは十年に一度の車検制度が

できたとかで、ずいぶん車もきれいになっていた。が、

路上のゴミはあいかわらずだ。

 

盗人もおおい。テルミニ駅のガラの悪さには眉をひそめてしまう。

自動小銃をもった警官もよくみかける。

 

でも、油断さえしなければ十分たのしめる。メシはやすくて

うまいし、観光客なれした人ばかりなので、こちらが

愛想よければたいてい陽気にわらってくれる。

添乗員のいうような悪人ばっかりだったら、住人がいなくなるだろう。

 

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容量のつごうで、写真がちいさくて申し訳ない。

すべての機体が掲示できるわけでもないので、ここでは

めずらしい機体をおもに載せた。

このほかに、

■ローナーTl水上戦闘機

■カーチスA-1水上機

■ブレリオ]T単葉機

■スパッドS.Z戦闘機

■マッキM.67 シュナイダー・レーサー(胴体)

■フィアットC.29 シュナイダー・レーサー

■ロッキードP80-Cシューティングスター戦闘機

■SA-16アルバトロス飛行艇

■スピットファイアMk.X(?)戦闘機

なんかがあった。他にもいっぱいあったとおもうけど、

写真に残っていて名前がわかるのはこれぐらい。

 

エンジンや装備品なんかもいっぱいある。歴史解説も

してくれてるが、如何せんイタリア語がよめないとだめだ。

 

あと、模型は古今東西のソリッドモデルが食堂の前にある。

圧巻はサボイア・マルケッティS.55の大編隊だ。

 

 

イタリア人はこの串型双発・双胴単葉・三垂直尾翼で飛行艇という

けったいな重爆が相当好きらしい。長大な

ショーケースに、この一機種だけ何十機も

ならんでいるのは模型とはいえ強烈だった。

 

じっさい、飛行機を肉眼でみると、写真でみたのとでは

印象がまったくちがう。図面やデータで寸法をみても、

よっぽど想像力がなければ実感がわかないのものだ。

できれば、カメラなんかいっさい使わずに、じっくりと

個々の機体をながめたい。

わりと雑なところが見えたりしてね。

 

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