これは、かなり古い農民車だと推察する。エンジンは最低一回は交換しているだろう。
古いと考えられるのは、その運転席の構造にある。機械の基本的な構造というものは、新しい型に
造りかえられるにしたがって、より造りやすく、簡単なものになっていくものだ。それに強度が優れているものは、
おおむね単純な組み立てになっていく。そのほうが製作コストも安いし、短時間で造れるということもいえる。
したがって、不必要に複雑な機械は、古いものに多い。例外的に新しくて複雑なものは、
わざとそうしている何らかの理由があるものだ。たとえばデザイン性とか、懐古趣味とか。
農民車という実用性がなにより重要になる機械は、かっこいいデザインなど意識して造られることは
まれである。だから、このように複雑な造り方をした運転席部分は、古いにきまっている。
これは車台(シャーシー)を始めに組み立ててから、あとで思いつくままに次々と必要な部品を
くっつけていった、という感じである。一個だけのヘッドライトの上、まっすぐした鋼材のその上にある
ヘラヘラの鉄板は、足をふんばるための支えになるものだが、いかにも場当たり的に取りつけられたようではないか。
とれかけた指示器(?)も、昔よくみた形のサイドミラーも、どうでもいいようなくっつけ方である。
こんなところにつけたら、すぐに何かにあたってとれてしまう。 どちらも用をなしていないだろう。
しかし、それにしては荷台のほうはステンレス製で、立派なものである。これならば堆肥を積んでも、
そうそう腐食しないだろう。あるいは、荷台もエンジンとおなじように張り替えたのかもしれない。
これを四輪駆動としたのは、レバーが三本もあるからだ。荷台がダンプするとも思えないので、後輪駆動と
四輪駆動の切り換えレバーがついているのだろう。それにチェンジレバーと、あと一本はなんだろうか。
背の低い運転手は、畑から紫色の収穫物を運んでいた。いったいなんなのか、これは私には想像もつかなかった。