荷台には、その重さの割合からは無視していい存在の竹の束がたてかけてあるが、これはトンネル栽培のための支柱。
背景にひろがる玉葱とは別の作物を世話しているようだが、なにを作っているのか聞くのを忘れてしまった。
農薬は、別の畑で玉葱のために撒くのだろう。これだけの大きなタンクを積むのは、やはり一枚の圃場が、あるいは
所有する圃場が広いためだ。いわずもがな、小さいタンクだと何回も水を汲んだり農薬を混ぜたりする手間が面倒なのだ。
 それにしても、横から見るこの農民車のバランスには見とれてしまう。
鼻面から長く突き出たエンジンや、やや無駄な空間のある運転席などは、規格内で少しでも室内空間や積載面積を広げようと
努力し進化する市販車とは、かけはなれたおおらかさだ。規格のない農民車は、ただエンジン・ハンドル・フットペダル・
運転席と、置けるところに並べていっただけ、という印象を持ってしまう。
 荷台も、これ以上いったら後輪軸で天秤になるな、という限界まで後ろに伸ばした後部になっている。
車輪が荷台の中央部にあるのは、近年のトラックにはない配置だ。だいたい車軸間を広く取って、ピッチングを防止する
ものだが、そうそう猛スピードで走ることもない農民車はそういう配慮もしなくていいのだろう。
 前述の説明とは矛盾するが、車軸間がせまいと小回りはよくなるので、大回りしかできないよりは、小回りできたほうが
いいのだ。制約のおおいなかで常に突き詰めて考え抜かれる市販車も、その意味での魅力はあるが、それとは対極にある
農民車のデザインには、牧歌的な、農業の本来持つべきであろうゆとりを感じるのだ。



       
            
                                                ■368.cwf4×4/060522/三原町八木並松

 ナンバーは、いつもなら番号を合成して識別できなくするのだが、これはすでに判読できないほどの状態になっているので、
あえてなにもしていない。
 荷台のアオリには、噴霧用の竿を置くためのフックがあるが、こういうものは案外珍しい器具。普通は、タンクに斜めになって
置かれているが。しかもよく見ると、他にも細々と個性的な部品が見受けられる。後端部の鉄板で作られた足掛け。これは
異形鉄筋などを曲げて溶接してあるタイプが一般的。鉄板を切り抜く手間は、なかなかかけない部分だ。
それから伸びている曲がりくねった鉄棒、これは指示器とナンバーを保護するためのものだのだろうか。これも普通は
指示器だけを保護するもんだが。そもそもそれもない場合が多いけど。

 あくまで一般論で私の印象だが、大型の農民車はあまり手をかけられた、所有者のこだわりがある個体が少ない。
人間、小さいもののほうが扱いやすいからだろうか。
 この大型農民車は、きちんとまっすぐ積まれた荷物といい、使い込まれた外観といい、他にない装備など、好印象のある
農民車だった。
 ちょっと上から目線かな。
 
 
■cwf4×4
………………………………………………………………………………………………………………No.13
[目次へ△]
[前頁へ]
[次頁へ▽]
       
           
 
                                                         ■410.
       
           
 
                                                        ■369.
 三原平野の広大で水平な耕作地で使われる農民車は、その土地柄から大きく、速くなる傾向がある。
登ったり下りたりすることが少なく、いちどに大量の荷物を扱うことができるためだが、山間地で重要となる安定性や
旋回性能があまり考慮しなくていいというのは、車を設計する過程ではかなり楽になる。
 写真の黒い農民車は、まさにその設計思想が顕著にあらわれたものだ。
二トンくらいはあろうかという農薬のタンクと大型の動力噴霧器を積み、後輪はかなり荷台と近くなっている。
前輪は反対に接地圧がすくなそうだ。こんな過積載な状態で走れるのも、平地の多い土地ならではだ。