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非常に手入れの悪い納屋というか車庫に、まだ真新しい堆肥散布散布車が半分笹に埋まっていた。
写真297.は、道と反対側のほうから撮ったもので、この位置まで入り込むのはかなり苦労したのを覚えている。
失礼ながら、こういったなかば放置されたような建物を所有している農家は、本人も
ある意味で放置されたような人物がおおく、あまりお近づきにはなりたくない。
できれば敷地に足を踏み入れて写真などは撮りたくないのだが、その危険をあえて承知で
前から撮りたい理由があった。それは運転席の上にかかっている庇である。
■298.
いままで当HPをご覧の方は周知のとおり、農民車というのはシンプルさが売り物なので、いまやトラクターでも
空調付きキャビンをよく見かけるのに、農民車は座席に屋根があるものさえもかなり珍しい。
余談になるが、いちど完全なキャビンのついた農民車を国道ちかくで見つけ、車で山中まで
二キロほど追いかけたことがあった。乗っている人にかなり怪しまれた挙句、ついに撮影できなかったことがある。
他に、ハンドルの前に単車の風防をつけているのにも出くわしたが、それも撮り逃した。
それらに限らず、かえすがえすも惜しいことをしたものはたくさんある。
話をもどして農民車の屋根だが、これがほんとに少ないのだ。
農作業というものは、元来が濡れたり汚れたりするものなので、使用する服や道具は、もう汚れてもかまわないものに
始めからきまっている。たとえ車の座席といえども、いったん田畑で仕事をした服で運転しようもんなら
汚れてしまうのは必至、ならばはじめから雨や埃をふせぐ屋根など不必要なものなのだ。屋根をつけると金がかかるし。
純然たる農業機械である農民車には、だから屋根つきがあまりない。
このページの農民車も、雨が理由で屋根つきなわけではない。
走行時、進行方向に風防がないと間違いなく雨にあたるからだ。
堆肥散布車は泥や雨以上の過酷な汚れにさらされる。
この屋根の目的、それはまさしく堆肥なのだ。
■299.
見てのとおり、散布機の最後尾には荷台の堆肥をばら撒くため、
複雑な角度で取り付けられた何枚もの羽根が、タイヤが前進する方向に回転する。
このとき、堆肥が後方にだけ落ちてくれれば問題ないのだが、悲しいことに
それは前方の運転席付近にまで平気で飛ばされるのだ。
もちろん、後ろの耕作地に落ちるほうが圧倒的に多いが、それでも
堆肥が我が身に降りかかってくるのは、想像するだけでほんの少しでも不快である。
たとえ堆肥が畑を肥やし、作物を育ててくれるとてもありがたい存在だとしても、
もとは牛や豚の排泄物、いまはどうかしらないが、昔は人糞だって利用されていた。
どんなに発酵しきって乾いていても、どれほど土と変わらなくなっていてとしても、
やはり頭部や顔面にに落下してきて気持ちのいいはずはない。
襟首から背中に入ってよろしいものではない。
だから堆肥散布車には、ほかの農民車よりは屋根・庇が付けられた割合がおおいが、
それとても堆肥散布車のなかのほんの一部だ。
やはり農家のひとは、堆肥に関して汚いと思う気持ちがすくないのだろうか。
話はちがうが、この散布機の回転部上にカバーをつければ
前には飛ばないのでは、と考える向きもあろうが、そういう散布機はすでにある。
しかし荷台に堆肥を積む必要上、どうしても十分な大きさのカバーがつけられず、したがって
堆肥は運転席に降りかかる。完全に堆肥散布を制御しようと思うなら、輸送トラックのような
ウイング付きの荷台が必要になってくるだろう。
そこまで金をだすきれい好きはまだまだ少ないので、当ページの農民車は、
運転者の頭上へ屋根だけをつけた。ふりかかる堆肥は軽いので、屋根の構造も
鉄パイプを曲げて溶接したごく簡単な骨格に、透明な波板を貼った非常に単純なものだ。
柱が二本しかないので、何かの拍子に手で持ったらたちまち曲がってしまうだろう。
鉄パイプの塗装も錆び止め塗料そのままときた。
これは完全に、堆肥を防ぐだけが目的の屋根なのだ。
写真の透明波板にはこまかい堆肥が付着していて、効果は十分にありそうだ。
従来の堆肥散布車は、運転席の後ろにある立て板を高くして堆肥被害を
防いでいた例がおおかったが、やはり屋根はあったほうがいい。
これからは、こういう簡単な屋根がついた散布車がたくさん見られるかもしれない。