■faf4×2
この日は、小雨の降るあいにくの天気だった。当時、白黒フィルムを使い始めたころで、よせばいいのに曇天模様に
モノクロで撮影してしまったため、チューリップもまったくアクセントになっていない。撮影の主眼が
農民車の記録にあるので、その細部が撮れていればいいのだが、こちらのほうも光量不足でもうひとつはっきりしない。
おまけに車体がエンジン以外すべてコールタールで塗ってあるときた。夜には公道を走れない車である。
後ろからはほとんど黒ベタになるからだ。それに、エンジンの左についているサイドミラーは、運転者からは
見えないにちがいない、意味のないものである。
コールタールは、古い木造家屋の外壁に塗られることが多い。淡路島でも、とくに海岸の漁村など、
かつて路地の両側は真っ黒だったものだ。油分が雨水をはじき、安価で手軽な防腐塗料だが、強烈な臭気と色そのものの
殺伐さに最近はこれを塗る新築は皆無にちかい。
農民車においても、コールタールを塗っているのはこれ一台ではないだろうか。
鉄部には黒い塗料を塗っているものがあるが、あれは質感からして普通のペンキだろう。
普通のペンキもそうだが、日光にさらされて、色褪せてくると、かえっておちついた色合いになるから不思議なものだ。
写真の農民車も、とくにアオリ板のツヤのない風合がなんともいえずあたたかかった。
お気づきの方もおられるかと思うが、実はこの農民車は中古車として売られているのである。
こんな雰囲気のある農民車を使っていた人物は、どんなひとだろうか。
値段はわからなかったが、「二万円くらいならば買おうか」などと、酔狂な考えを実行に移すほどの
勇気は、私にはなかった。
こういうものは、ぜひ地元の博物館か資料館で購入しておいてもらいたいものだ。
車台は、fam4×2のNo.1と同形式のようだ。エンジンの位置だけがちがっている。
写真166.では、その複雑な運転席の構造を示している。