■fwf4×2
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■84.fwf4×2/901222/三原町榎列
大工や職人が日々つかう道具というのは、人の手や衣類がその表面を摩滅させ、あるいは脂が染み込み、ニスや塗料が出し得ない
深みのあるつやがうまれるものだ。
また、職工や整備士がつかう金属製の治具なども、油類がくわわって味わいをましていく。
前々頁のfwf4×2にはそういう渋味がそなわっているが、この84.がそれらにあたるのかは、微妙なところである。
真っ黒なエンジンは、軽油とオイルと排煙とほこりのまじった複雑微妙な飴色をしている。こういうのを味わい深いというだろうか。いや、たんに掃除を
不精しているとしかおもえない。排煙に煤がこれだけまじっているのも、手入れをおこたっているのだろう。地面につねについているタイヤのほうが
よほどきれいだ。
こんなによごれていては、もうどうしようもない。しかし、きたないと一言でかたづけられない雰囲気をもっている。
それは全体に載せられた、農薬のタンクだの散布棹だの、農薬のダンボールだの、足袋式の長靴だのの用具たちだ。この
車の使用者は、この車体を精一杯利用しているのだ。整備や掃除をしないかもしれないが、それは不当なことではない。使用者は
この車に愛着などは感じていないのかもしれない。こわれたら新しい農民車を買うだろう。しかし、持てる能力を100パーセント発揮させていれば、
けっして無駄に機械を使っているのではない。たとえれば、全力で走っているのだ。
この車に心があるとすれば(そんなものはないのだが)、きっと不満ではなかろう。自分の力を出し切って、すっきりした疲労が全身を
おおっているはずだ。主人が自分にたよってくれれば、悪い気はしないだろう。
大事に大事に愛車をみがいているのもいいが、こういう使い方も、豪快でいいかもしれない。