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     ■256.fwf4×2/920116/三原町
 
 

 

 古くから大切に扱われてきた道具というものは、どんなものでも味わい深い。
 しょっぱなから、農民車というこのHPの主題からは外れる話になるが、私は長い間
「農業用発動機」、略して「農発」なるエンジンがあることを、知らなかった。

 「農発」というのは、一般的な愛称に近いものらしい。

 形式と分類という項で、私は農民車に使われるエンジンの見分け方として、「農業用エンジン」という
分野をもちいていた。これにはたとえば農業機械…耕運機やトラクターなどに使われるエンジン、
それと地面に据え置いた形で使う、籾摺り機や脱穀機・揚水ポンプの動力源としてのディーゼル機関を
想定していた。
 ところが、そのなかには「農発」、正式名を「石油機関」といういまや失われつつある動力形式が
含まれていたのだった。知っていればエンジン形式を石油機関と農機エンジンに分けたかもしれないが、
いまとなってはこのままで通すしかない。
 もっとも、現在では農業をやっている人ですら農発というものが石油機関を指す、ということを
知らないで、農業機械メーカーが造るエンジンをなんでもかんでも農発と呼ぶこともある。

 写真256.にある油まみれのエンジンがまさにその石油機関なのだが、それとしらずfwf4×2のNo.4にも
石油機関搭載農民車を紹介していた。自らの不明を恥じるほかない。

 さてその石油機関だけど、インターネットが発達した現代においても、その駆動原理というものが
解説されたHPはなかなか見つけられない。
 そこで、基本的な知識吸収法として図書館で専門書を立ち読みしてみた(借りろよ)。
 「初学者のための内燃機関」という本によると、
基本構造はディーゼル機関のそれとほぼ同じであるが、始動時のみガソリンを使って
点火、回転が安定したら軽油または灯油への噴射へ切り替えて運転する。
 外見上の特徴は、冷却装置にある。
 エンジンの冷却は普通のラジエーターによるものではなく、シリンダーを水の中に沈め、
その熱で水を蒸発させる。水は蒸発することで熱を常に外気へ逃がす。これをホッパー式と言うらしい。

 普通のラジエーターとどう違うのかというと、ラジエーターが密閉された管のなかを冷却水が循環するうちに
外気で管ごと冷やされていくのに対し、ホッパー式はバケツのようにフタがない。フタがないので
水はどんどん蒸発していくが、石油機関は単気筒で非常に低い回転数(最高1000rpmくらいか)に
抑えられているので、適当に水を注ぎたしていくだけで冷却を維持できるのだ。
写真257.にある、エンジン上部の四角い穴がその注ぎ口で、他のどのエンジンを見てもいつもフタがない。
そこからぴょろんと出ている玉がウキになっていて、この上下で水位がわかるらしい。
針やデジタルによる数値表示が一切ない、一目でわかる楽しい計器だ。

 個人的な意見だが、この簡単で誰にでもわかる原理のエンジンは、農民車にとてもあっていると思う。
農家の道具というものは、長年の野良仕事に耐えるための頑丈さと、機械知識があるとはいえない
普通のおっちゃんおばちゃんにも扱え、維持整備できる構造の単純さが必要だ。
 悲しいことに、最近はこの冷却方式をあまり見かけなくなった。ひょっとすると、通常のラジエーターがついた
石油機関があるのかもしれない。

 最近の乗用車のボンネットを開けてみると、とても理解不能な複雑きわまる機械類が
詰まっているが、写真にみられるように、エンジンというのはこのように単純な形式もあるのである。
このページにある石油機関はかなり整理洗練された設計であり、長い歴史の中で到達した
完成形ともいえるのではないか。

 石油機関はすでに発動機開発の舞台からは退きつつあるので、おそらくこれ以上
合理的な形のものは出ないだろう。

 

 

 

  ■257.

 

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 農民車本体も、荷台のリフトダンプや四駆、ショックアブソーバーにパワステや
果てはオートマまで出てきて、ますます複雑になってきている。もはや整備も農家だけでは
こなせなくなってきているのが現状だ。便利さと高性能を求めれば当然の帰結ではあるが、
なんだか寂しくなってくる。
 やはり農民車というものはこのページにあるような野暮ったいものがいい、と思うのは
外野から見た無責任な意見なんだろう。




付記:さて、このページを更新してすぐさまおたけさんから掲示板に書き込みがありました。
    予想はしてましたけど(笑)、あいかわらず素早い反応で恐れ入ります。

ディーゼル機関と石油機関は全く違います。
燃料噴射ポンプから高圧に圧縮された軽油や重油を自然着火させるのがディーゼルで、
灯油(石油)を気化器から吸わせて点火プラグにより強制的に着火させるのが
(ガソリンエンジンと似てますね)石油発動機です。
ディーゼル機関には、二つの燃料制御方式があり
中学の技術家庭などで習うボッシュ型と
ディッケル型ポンプなどが有名ですね。

農発などでは、汎用型エンジンで富士重工が石油エンジンをまだ生産しているみたいです。


…ということです。いいかげんな読みかじりの情報を更新してしまって
申し訳ありませんでした。
あらためて図書館で確認したところ、石油機関と構造がほぼ同じなのは
やはりガソリン機関である、ということです。
お詫びして訂正させていただきます。
やはりおたけさんの知識の奥深さにはかないませんね。
というより、ちゃんと本を借りてきて手元で読みながら
更新しろってことですか(苦笑)。

おたけさんへのメールはこちら

迷惑メール対策のため削除しました。




その石油機関の件で、おもしろいメールを
愛知県岡崎市の大橋さんからからいただきました。

「農発」のお話を拝見して、遠い昔を思い出しました。
昭和30年生まれの小生、子供のころ農繁期には
よく田んぼへ連れて行かれました。
収穫のころ我が家では、刈り取って田の周りで自然乾燥した稲を脱穀する動力に
「農発」が活躍しておりました。
そこで思い出したのが、
>ホッパー式はバケツのようにフタがない。
我が家では、そのホッパー式ラジエーターに小さなざるのようなものを入れ、
隣の畑から摘んできた枝豆を入れて湯がいておりました。
さすがに塩は入れてなく量も少しでしたが、それがおやつでした。



なんともおおらかで大胆な調理器具ですね(笑)。
いまからみればラジエーターの余熱を有効利用する
環境に配慮した先進的な発想、昔の人の知恵には感服します。
でも湯がいた枝豆はちょっとオイルのにおいがしたかも(笑)。
大橋さん、心温まるメールをありがとうございました。

大橋さんへのメール


迷惑メール対策のため削除しました。



さてさて、またまたおたけさんから掲示板に書き込みがありまして、
このページの根幹に関わる間違いが判明いたしました。
写真のエンジンはKND5という、現在は
中国のメーカーが造っているもので、なんと
ディーゼルエンジンなのだそうです!!
ひゃーッ!
ホッパー式=石油機関という勝手な図式を描いていた
近野の完全な思い違いですね。
本当に申し訳ありません。
もうこのページを削除してしまおうかと思いましたが、
まあこの経緯を公開して恥をさらすのもいいか、と
そのままにすることにしました。

でも、これでは石油機関とディーゼルは外見からの見分けが
つかないですねえ…ということは、
ディーゼルもガソリンも石油機関も混合燃料も
ひっくるめて「農業用エンジン」と
分類した近野の判断自体は結果的に正解だった…?
と少しでも前向きに解釈しときますか。