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■112.fwm3×2/920517/緑町土井
予想もつかないような物体や現象に出くわしたとき、人は感動する。
この車輪がみっつしかない農民車をたまねぎ小屋のなかに見つけた際、私は驚天動地の感覚に酔った。
いったい私は農民車という特殊な車両を採集しつづけていて、三輪のそれがあるなど、ほんの一瞬たりとも
想像したことがなかった。現代の車社会において三輪車など絶滅の一歩手前にあるし、新車種の開発など皆無だ。
ミゼットUも四輪になった。この著しく安定の悪い形式をあえて採用する人間など、もうこの世にはいないと
思っていたわけだ。
しかし、事実は小説よりも奇であった。こんなものを造ろうとする農民は、いったいどういう頭をもっているのか。
一説によると、三輪車は四輪よりも旋回半径がちいさく、山道では重宝するそうだ。なるほど、この緑町土井というところは
かなり山村である。一戸あたりの作付け面積もせまいであろう。だから三輪の小型車ということになったのか。
よくみると、安定性をよくするためか、かなり低い重心にしてあるようである。もっとも、この農民車の母体と
なっただろうオート三輪は、これよりも重心が高かったかどうか、それははっきりしない。私がほんとうに
稀に見かけるオート三輪は高かった印象があるが……。
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以上を考えあわせると、この三輪車も存在意義があるのかもしれない。が、いかんせん三輪農民車は
私の採集数でもたった三台しかない。やはり必要性がうすいのだ。しかも、そのうちの一台は、三原町八木の国道端という
だだっ広くて見晴らしのいい平野のど真ん中にあったのだ。農民車の形式がすべて土地に適応しているとはいえないのだが、
理由がさっぱりわからない。所有者の趣味だろうか。
もうひとつ特筆すべきは、このエンジン配置である。運転席の直後にエンジンを置くのは、この農民車
一台きりであると断言しよう。荷物を置くべき荷台に、たえず駆動している機械をおく馬鹿はいない。
荷物が破損する危険性があるからだ。他に置く位置がなくて苦肉の策というべきか、発想の転換というべきか。
それにしても、どこまで市販車の部品を使っているのだろう。このバイク式のハンドル、これは市販の
ものなのか。
所有者か製作者にあってみたいと、あらためて思う車である。
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