▼派生型(特殊車両):外国の農民車のこと  

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                ■186.fwf?×?/撮影年月日不明
 

 

 高名なアニメーターのO氏と、ネット上で知り合えてから一年ほどになるだろうか。
O氏は尊敬すべきベテランアニメーターであると同時に、軍用車輛についてもかなりの権威で、普段から
「ちょっとした暇があると、ついエンピツをにぎってジープを描いている」ほどのジープ好きだそうだ。
 ジープと農民車は、かなり近しい存在にある、と勝手に解釈した私は、O氏のHPを発見した瞬間、農民車に
ついての意見を伺おうとその掲示板へ自分のHPを紹介したのである。あとで考えてみると、ジープと農民車の
類似点は「純粋に実用的な装輪式車輛」である、という以外にはあまりない。人の命がかかる頑丈な軍用の大量生産品と、
のんきな手作りの中古品寄せ集めトラックとは雲泥の差がある。それでも農民車のダサい雰囲気は、O氏の趣味に
合うはずだ、と意気込んだのだ。

 

 O氏はこころよく「農民車考」を参照してくれ、その文化的な重要性にについてご理解をいただいた。以来、
図々しくない程度(?)に掲示板でしゃべっている。これもインターネットのおかげだが、そのO氏から、
台湾の農民車について情報をいただいた。

 

 台湾版農民車は「力行車」と呼ばれているらしく、その部品はなんと日本からのスクラップが
ほとんどだそうだ。税金免除、安価であるなどの点が農民車の特徴と同様で、むかしから台湾全土で
使われているらしい。「大胆なデザインとユーモラスな姿はたしかに記録に価する」とO氏が
いうほどなので、農民車以上の発想で台湾を走っているのだろう。「力行車」のネーミングも
「農民車」に匹敵するすばらしさだ。想像するだに興奮する話だが、残念ながら勤め人の私には
現地へ飛んで取材する財力も時間もない。奇特な台湾人がHPを作っていないかと
検索してみたが、台湾語のデータはダウンロードするだけで半時間ほどかかってしまうし、だいいち読めない。
写真もあまり載っていないようなのだ。かえすがえすも悔しいことである。このような文化遺産は、ぜひ
故宮博物院にでも展示していただきたいものである。

 

 くわえてO氏からは、フィリピン版農民車の話題も提供していただいた。
「フイリッピンは全国的にGMCーCCKWをはじめとする米軍トラックが走り回っています。
 ただしエンジンはすべて日本から輸入したスクラップを再生したもので、山のように
 砂糖黍を載せて走り回る姿は壮観です」とのことで、これも一度は肉眼で見たい光景である。

 

 おもうに、ある程度の工作技術と車輛部品の供給さえあれば、世界中どこの国でも農民車のような
需要はあるのだろう。人や家畜が担う量よりもはるかに大量の物資を運べる機械は、農村では必需品
にちがいない。そこで問題なのは、村の鍛冶屋が作るような手作りの車輛が、国などの機関から
規制を受けるかどうかが、こうした車輛の普及するか否かのカギを握っているということだ。
人々の安全をはかるために設けた規制が、人々の自由な発想を妨げているとすれば、皮肉なことである。

 

 写真186.は、何年かまえの産経新聞に掲載されていた「アジアに生きる」というコラムで
見つけたもので、私が唯一所有する外国製農民車の画像である。やや幅広な車体にはサイドミラー、ライト、
スモールライト、ウインカー(?)まできっちり着いていて、淡路島のものよりきちんとした印象をうける。
ライト周りの箱状の構成物は、すべり止めのついた鉄板でつくってある。荷台は木枠である。ハンドルを握る人が
いないので、多分その人を待っているところだろう。コラムの全文も紹介しておこう。

 

「家路を走る」 写真・文 野中 章弘
ここはチャプラヤ−川のデルタ地帯。その車は歩くような速さ(遅さ?)でポン、ポンと
派手な音をあげて走っていた。農作業を終えて家路につく人たちを小山のように満載して、
悠然と。聞けば、耕運機や水揚げポンプのエンジンを利用した手作りの車らしい。どうしても
速く走れない(無理もない)この車だが、みんなは「イタン(若い気まぐれ女)」と呼んで
可愛がっている。世界第1位の米輸出国を支える農民たちはとても陽気だった。(タイ)

 

 イタンという名が、この車のみの愛称か、一般名かわからないが、意外に洒落た命名だ。
きっと、本当に大切につかわれているのだろう。

 

 なお、この資料は産経新聞には無断で使用している。あまり硬いことはいわないと思うが、
支障があれば削除するので、その旨ご理解いただきたい。

 

 
 

 

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