農民車を購入したのはHさんが小学校五年生の頃で、製作所についてはHさん自身の記憶が薄れていて
はっきりしないらしいが、
fam4×2のbPと同じ型で、おそらくはこちらのほうが
やや新しいのではないかと思う。どことなく全体的にすっきりしているし、造り方が手馴れているような
雰囲気がある。
もっとも、それはHさん一族の不断の努力がそう見せているのかもしれない。Hさんのお話によると、
1…荷台の木製側板は、二十四年前におじいさんが手作り。
2…後輪ブレーキのみだったのを、おとうさんが(H少年の懇願を聞き入れ)四輪ブレーキに変更。
3…初代の三菱メイキエンジン(八馬力)を昨年に最新式の富士ロビンエンジン(八.五馬力)に換装。
4…後輪はジープ用だったが、昨秋に籾を満載した際にパンク、あちこち探すが適合サイズが見つからず
トラクター用のタイヤに交換。
……といったところが主たる改良点だという。他にも、私が見たところでは金属部へのシャーシーブラック
塗装、ライトと配線の新規装備、アクセルレバーの交換、バッテリーも新品のようである。
これらは、エンジンの載せ代えを機に、一挙に手をいれられたのだろうか。
Hさんはもともとかなりの車好きのようで、当時から授業中に四輪ブレーキのイラストを描いていた
というツワモノだったそうだ。現在もこの農民車を近所周りの足代わりとし、奇異の目で見られているという。
その使い勝手・乗り心地はまさに「最高」の一語に尽きるそうだ。私のような素人には一見ミョウチキリンで
非常識に見えるその外見にも、十分に理由と効果があるという。
Hさんの実家の両隣には、エンジンを前に載せた農民車と後部に載せた農民車があり、それぞれに
慣れ親しんでいた幼少期だったという。その比較からして、後部搭載型は始動・点検時にいちいち
後ろまで行かなければならないので手間がかかり、前部搭載型は前の視界が悪く、狭いあぜ道を走行する
時にはかなり不便らしい。また近野がたびたび指摘していた運転者が排気を吸ってしまうのでは、
という疑念は、むしろ走行時は前からの風で前部搭載型のほうが排気をかぶってしまうという。その
エンジン騒音も、目の前にあろうが腰の下にあろうがたいして差はないそうなのだ。そして座席を
跳ね上げないと給油できない面倒さ、というのも「慣れ」で気にならないという。
Hさんの実体験に基づくお話は、多分に長年の愛着からくる贔屓目が入っているそうだが、
それらは自分の車を相棒として感謝している人特有のものだろう。使い始めた当初は、たしかに
前方になにもなさすぎるために不安感があったものの、やはりすぐ慣れたらしい。逆に、速度が
極端に遅く、狭隘な田なかの小道をたどる農民車には取り回しの良さがなによりだという。
写真のバックに映る風景は、まさしくその設計思想を産んだ風土であるに違いない。