ー続・法的農民車考ー

「法的農民車考」は平成十五年の大晦日に更新したのですが、
その途端にすぐさま「農民車史」 「農民車解体論」
おたけさんから掲示板へ書き込みがありました(笑)。
その資料をもとに、続編を更新します。
例によって、農民車の開発段階を事細かに
理解している造詣の深さには感服いたします。






農民車の開発が進む中、公道を走行することで
法的な問題がその普及と共に出てくる点がはっきりしてきた頃、
農民車をどういう形式認定と分類にするのか、問題でした。
運搬を目的とした場合では、運輸省(現:国土交通省)で認定を取る事は難しく
色々検討した結果、「農耕用作業車」として認定を取ることになり、
その便宜上、荷台の後ろに「鋤(スキ)」を装着した農民車が製作され、
あくまで農耕用として認定を取ったように聞いています。
その結果、農民車の荷台は後部タイヤハウスの少し後ろで終わっているのですが、
本来の(?)運搬のためにそこから延長して(約30cm)、
現在の農民車荷台長さにしています。

また、取り付けた鋤を上下させるために、
運転席から長いテコのような延長棒が取り付けられていました。
AT-85初期型カタログには、
タイヤチェーンを装着してスキ作業をしている写真が
八木の並松を背景に撮影されています。

残念ながら、おたけさんは「AT-85初期型カタログ」という資料を
紛失されてしまったようです。そこで近野がおたけさんの記憶をもとに
想像図を描いてみました。




延長棒はかなり長くて、荷台にある以上は支持架のようなものも
取り付けられなかったでしょうから、かなり不安定な状態だったと想像されます。
ひょっとすると、その安定のために全長を短くしたのかもしれませんね。
いちおう、鋤は左右方向に振れる矢印を描いていますが、
延長棒がついている場合は、当然不可能です。

おたけさんからは、鋤についてのHPもお知らせいただきました。
リンク許可もいただきましたので、どんなものが
登録農民車に装着されていたのか、覗いてみてください。

いろんな鋤(犂と表記されていますが)があって、たいへん珍しい資料です。

http://www.niplo.co.jp/kinen/kinenc/s06.html


(おたけさんの続き)
搭載エンジンは、当時のクボタ社製ER型エンジン以前の形式が
認定項目に書かれていたように思います。
ですから昭和五十年代以前のエンジンですね。
1990年代にこの農民車が販売されていたのは、
海外のクボタで生産されたER型エンジンが
輸入されて使用されていたか、
あるいは海外向けの旧型エンジンで製作されていたようです。
昔からある石油発動機は全て搭載できたように思います。

また、1990年代に販売されていた、前述の取扱説明書が
出来た頃の農民車にはエンジンにセルモーターを
取り付けることが出来ないので、変速機にセルモーターを取り付けた
農民車が生産されたように思います。
私が知る限りでは、最終版AT-85機は洲本市大野で共同利用されている
バキュームカーがそうだと思います。

おたけさんへのメール

mailto:hfc02427@nifty.com




さて、おたけさんの解説にしたがって近野が持っている写真資料を
ほじくり返してみましたが、案外「これが認定車だ」と
確定できるものが少なく、ようやく一台だけ見つけました。
おそらくですが、少し大型のAT-85型だとおもいます。




       ■243.fwf4×2/970320/五色町鮎原


ごらんのように、荷台の前後車輪中間部に運輸省認定番号の銘盤が
ふたつ付いています。
それと、おたけさんのいう
「農民車の荷台は後部タイヤハウスの少し後ろで終わっているのですが、
本来の(?)運搬のためにそこから延長して(約30cm)…」
という部分がおわかりいただけるでしょうか。
新規荷台に帯鉄を溶接して、車体側にはボルトで留めてあります。
ひょっとしたら、役所に文句をいわれた場合に備えて、すぐ
取り外しができるようになってるのかもしれません。
おそらく、荷台の裏側では桁を増設して補強されているでしょう。

荷台後端の鋤を取り付けるための接続具はついていませんが、
登録上の必要で装備されていた形式的なものだったので、
やがてはじめから造られなくなっていったのでしょう。


 ■244.


今回はサービスして、いつもより大きい画像で多く掲載しております(笑)。
前輪が独特の縦溝タイヤですが、これが仕様緒元にあった
「500-15 4プライ」というタイヤで、さっきネットで調べてみたら株式会社カクイチというところが
つくっていて、参考価格は¥12,500-でした。
レシプロ戦闘機の主脚車輪みたい(笑)で昔から気になっていたのですが、
まだ作られていたんですね。
このタイヤも、最近は取り付けられている農民車を見なくなってきました。

それと、後輪の「600-15 6プライ」というタイヤは、
カクイチの商品目録には載っていませんでした。
もう生産していないか、ひょっとしたら仕様諸元に
誤りがあるのかもしれません。



 ■245.


まんべんなく錆が進行して、これはこれで味があります。



 ■246.


ここはヤンマー営業所の車両置場です。ここにはいろんな中古車両が
頻繁に出入りしています。
この農民車も数日でなくなっていました。廃棄されたのではなく、
どこかでだれかが使っていてくれるといいんですが…。

できるだけ安価で簡単に造れる、無駄のない合理的な美しさが
お役所の要求する必要事項とあいまって醸し出されているとすれば、
国家の規制にも感謝しなければいけませんね。
飾り気のない農民車の、しかも使い込まれたものの正面形は、いつみてもほれぼれします(私だけ?)。
もっとも、運転席に座るとちょっとした馬にまたがってるみたいで
怖いんですけど…。



 ■247.

写真245.を拡大したものですが、なんとか「ER65・M」の形式名が
わかります






また、灘の国観光さんからも補足説明のメールをいただきました。
ものすごく仔細に解説して下さっているので、読むのに集中力が必要です(笑)。
もっとも、こういう法律関連の文章はどう書いても簡単にならないもんですが。




「法的農民車考」の中で
「農民車は分類上は小型特殊自動車になる」との記載がありますが、
昔と違って現在では市町村役場で小型特殊自動車として登録される車両でも、
運転に際しては大型特殊自動車の運転免許が必要になる車両もあるんです。

これは何故かと言うと、私が作成した以下のページ↓

http://cvnweb.bai.ne.jp/~m-kawai/tokushu.htm

を御覧になれば何となく理解できるかもしれませんが、
実は平成9年頃の法改正で、これまで大型特殊自動車として登録されていた農耕作業用自動車
(北海道のジャガイモ畑にある大型の農耕トラクターを想像してください)の
税制優遇措置の一環として、新規格小型特殊自動車扱い
(登録上は小型特殊自動車、運転免許は大型特殊自動車が必要)とする事で
車検制度の廃止、割安な自動車税の適用などが実現されました。
つまり車の大きさが
「長さ4、7m 幅1、7m 高さ2、0m 排気量1500ccの基準を
超えている農耕作業用自動車でも、最高速度が35キロ以下である限り
小型特殊自動車として登録され、
緑色のナンバープレート(正確には課税標識)が装着されます。
但し運転は大型特殊自動車の免許が必要になります。

「淡路島農民車考」において、排気量が2000ccの農民車の話題が何度か出ていますが、
現在では、最高速度が35キロ以下で大型特殊自動車の免許を持っていれば、
登録上は小型特殊自動車でも運転に際しては法的に問題ないんです。
つまり、公開された画像にある農民車は小型のサイズの車が殆どなので、
排気量が1500ccを超えなければ
小型特殊自動車の免許で運転できるという事になります。
あとヘッドライトやウインカー・ブレーキランプの装備に関しては
保安基準の細かい規定があって、例を挙げるなら最高速度が20キロ未満の車両であれば
備えなくて良いとの事です。

話は変わって、淡路島内の各役場の回答を拝見しましたが、
基本的に何処の市町村役場でも登録に関しては現車確認が必要ない
(役所の担当者の知識があまりに乏しいので単に確認しないだけ)ので、
販売証明書もしくは他地域で廃車した時の廃車証明書(再登録用)、あと印鑑などがあれば
車両の状態に関わらず誰でもすぐに登録できます。

厳密に言えば個人が製作した乗物で販売証明書がなくても、専門書を閲覧して
小型特殊自動車の保安基準を満たした証明書を自分で作成すれば登録できるんです。
軽自動車税の税金も、離島など例外はありますが基本的に何処も同じで、
農耕作業用に従事する小型特殊自動車の税額は1600円、
その他の小型特殊自動車は4700円と定められております。
個人的に言うと淡路町の回答が一番分かりやすいですね。



灘の国観光さんのHP

 t-kawai@cvn.bai.ne.jp





灘の国さん、仔細な解説をありがとうございます。
役場担当者の知識が乏しいので現物確認しない、という点が
一番おもしろかったです。規制というものは厳しいんだか緩いんだか。
以前、洲本市に住んでいる方が自作の三輪車を水色ナンバー登録して
走っている話をHPで読んだことがありましたが、
そこにも書類と図面のみで通ったとありました。

それにしても、現在において農民車を農民車として登録する利点はいったい
なんなのでしょう。

寸法自体は小型特殊車よりも小さいのに、毎年かかる税金は同じなのです。
認可された登録農民車は高島式のAT-80および85の二種類のみですが
(若干寸法がちがうだけで、ほぼ同一車両です)、
それ以外の小型特殊基準の農民車は豊富な種類があります。
実際、高島鉄工でも四駆やらリフトダンプやら水冷エンジン搭載やら、
いろんな登録外農民車を造っています。
それにどうやら、公道を走るには農民車でも小型特殊以上の
免許は必要なようで、これはどう考えても小型特殊車登録のほうが
得なのではないでしょうか。
かつて高島鉄工が運輸省に登録申請したころは、農民車を農民車として登録するに足る、
また違った基準があったのでしょうか。

軽乗用車規格のなかに農耕作業用車が追加されたのは昭和二十八年で、
長さと幅が拡大されて現在の規格になったのは昭和三十二年。
高島式が登録認可された年代はいまのところ不明ですが、
まだ市販車両もろくに走っていなかった昭和三十年以前に
この完成度の農民車が手作りで生産され、国に登録されていたのでしょうか。
「おたけさんの農民車史」から類推しても、そうは考えられません。
謎は謎を呼び、農民車は私を迷宮へと載せて行きます。


いま、○に農の印がついた緑のナンバーは、たしかに減っていると思います。
やはり小型特殊で登録したほうが利点がおおいのです。
高島鉄工が存在しないいま、新規に認可農民車が造られることも、
おそらくないでしょう。
将来、○に農ナンバーは「幻のナンバープレート」に
なっているのかもしれません。




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