ある日、淡路島出身の大森 剛さん
nishhan@viola.ocn.ne.jpという方から、
次のようなメールが来ました。
20年くらい前に、五色町で農民車に乗った容疑者が駐在所に突っ込む、という
事件があったのはご存知でしょうか?容疑者は2000ccのエンジンを載せ、
最高時速60キロ程度が出るように不正改造した農民車を使ったのでした。
新聞・テレビでも報道されたと記憶しています。
ところで、農民車は分類上は小型特殊車になります。道交法で、
長さ4.70メートル以下、幅1.70メートル以下、高さ2.00メートル以下と決められています。
また、乗車定員は1人(運転者用以外の座席があるものは2人)、
最高速度は15km/h以下、
エンジンの総排気量が1500以下、
最大積載量500キログラムとなっています。
参考にしていただけたらうれしいです。
私が住んでいた近所の家に、カーラジオの付いた農民車がありました。
持主に伺うと、自分で鉄工所で作ったと聞きました。
エンジンは空冷の乗用車用で、多分、パブリカのものだったと思います
五色町の駐在所突入事件は、当時地元で半分笑い話として伝えられ
よく知っていますが、それはともかく農民車の法的規定は
近野も昔から気になっていたのでした。
いったい田舎とはいえ、本当にこれだけの数の違法車両が
堂々とまかり通っていていいのだろうか?
そして、なぜナンバープレートには
様々な記載方法があるのか?
(番号の前が○に農や、何もないものなどがある)
いずれどこかのしかるべき役所に聞こうと思っていましたが、
大森さんのメールを機会に、淡路島内の各役場に質問メールを
送ってみることにしました。
電話じゃ話が長くなるし、直接出向いていく時間もないし…
世の中便利になりましたねぇ。
それで回答を一覧表にまとめてみようと考えたのですが、
どこもかしこも内容がまちまちで、
どうにもひとつの表に収めることができません。
ちょっと読み取りづらいですが、原文をほぼそのまま載せることにします。
質問はすべて農林水産関係の課に問い合わせましたが、
税務のほうがよかったのかもしれません。
ちなみに近野の質問は、次のような内容です。
前略、毎日のお仕事ご苦労様です。
さて、農業用の作業車、いわゆる農民車のことなのですが、
登録ナンバープレートを取得するにはどのような書類を用意し、
どこへうかがえばよろしいのでしょうか?
また、寸法・速度・重量・座席数・最大荷重等についての制限はあるのでしょうか。
ご返答をおまちしております。
北から順にいきましょう。
淡路町
ご質問の農業用作業車は道路運送車両法第3条、同法施行規則第2条同別表第1に、
特殊自動車として規定され大型特殊自動車及び小型特殊自動車に分かれます。
公道を走行するためのナンバープレートの取得の場合、
大型は「近畿運輸局兵庫陸運支局」へ、
また小型の場合は「町」へ申し出ることになります。
寸法・重量・座席数・最大荷重等については特に規定はありません。
小型の場合、速度については、35km/h未満です。
なお、公道を運転する際は小型特殊自動車運転免許を取得している
必要があります。
軽自動車税の課税客体としては、「主たる定置場」がどこなのかによって
課税する市町村が決定します。
登録ナンバーを取得する場合は「主たる定置場」に指定している市町村の
役所にみとめの印鑑、規格のわかる書類、
販売証明(小型特殊自動車を購入した販売所で発行)、
住民票の住所と異なり別の市町村で「主たる定置場」を指定する場合は、
その所在の確認できる書類が必要となります。
登録の際は、登録する市町村に事前に必要な書類を確認したうえ
登録される方が良いと思われます。
…どうやら淡路町では、農民車は「農業用作業車」として規定され、
いわゆる一般の大特や小特と同じ位置に分類されているようです。
そのうえで、各市町村の対応がばらばらであることを注意してくれています。
北淡町
税務課の窓口で、軽自動車のナンバープレート(陸運局で登録分以外)を交付しています。
登録に必要なものは、販売証明書と届け出される方の認印です。
地方税法、軽自動車税第444条第3項にありますように、
農民車については町が税率を定めています。ちなみに北淡町は、年税1600円です。
また寸法、速度、重量とには、制限を特に設けていないのが現状です。
こちらはなんと軽自動車として分類されるようです…というか、
軽自動車の分類に「軽農耕作業用車規格」というのがあって、
長さ 4.30m
幅 1.68m
高さ 2.00m
排気量 1500cc(4サイクル)
1000cc(2サイクル)
出 力 7.50KW
農民車はこのなかにはいるのでしょう。
ただし、陸運局の管理とは切り離されていて
寸法も重量も規定なし(なぜ?)、税金は軽自動車の小特と同じなようです。
東浦町
@取得された農民車の販売証明書(購入された業者で証明してくれます。)と
A印鑑をお持ちいただいて、役場税務課に備えてあります
B軽自動車税申告書にご記入いただいた後に、ナンバープレートを交付しています。
課税に関しては、寸法等の制限規定等は特に見あたりません。
なお、所有者が東浦町に在住の場合は、東浦町で届け出をしていただくことになりますが、
そうでない場合は、お手数ですが、住所地の所在市町村で、
もう一度登録の方法等をご確認ください。
一体ナンバーがどこから出るのか、詳しいことがわかりませんが、
とにかくかなり簡単に取得できそうですね。
北淡町と同様、寸法等の規定がありません。なぜ?
一宮町
農民車のナンバー登録については、役場財務課で受付を行っております。
登録にあたって、「販売証明書」という証明書を、
販売元でとって頂くことになります。
車名、型式、番号、原動機型式、形状名、販売先名などを記入の上、
販売先の押印が必要です。
また、長さ4.70m 幅 1.70m 高さ2.80m以下で、
最高速度が特殊自動車の場合15km/h以下、
農耕用自動車の場合35km/hとなります。
さらに、テールランプ、ヘッドライトの有無等もナンバー取得に
必要な条件とのことですので、詳しくは当町財務課もしくは、
購入先にお問い合わせください。
ここでようやく大森さんのいう小型特殊らしき寸法規定が出てきました。
排気量の規定がありませんが、たぶん書き忘れたのでしょう。
しかし車名とか形式名とか、どういう名前になるんでしょうね。
津名町
農民車の件についてですが、農耕作業用自動車は、道路運送車両法の規定により
以下のように定められています。
農耕作業用自動車 総排気量 1500cc以下
長さ 4.7m以下
幅 1.7m以下
高さ 2m以下
最高速度 15km/h
…であれば小型特殊自動車となり、それ以外のものについては、
大型特殊自動車として規定されています。
登録の手続きは、販売証明書[車台番号等、どのような車種かがわかるもの(トラクター等)]、
住民票、印鑑を持参し、使用の本拠地である市町村役場窓口で申請願います。
こちらは、農民車を「農耕作業用自動車」と銘うっています。
これは道路交通法の分類にきちんと明記されています。
車台番号については、刻印が打ってある農民車を
紹介したことがありますが、この規定のために販売元が打ったものだと
思われます。
五色町
1.規格・寸法 高島AT80、AT85の寸法範囲内
※高島AT80…長さ2.60m 幅1.20m 高さ1.50m
※高島AT85…長さ3.31m 幅1.20m 高さ1.50m
2.作業機器 最小限度、田を耕作する「スキ」が取り付けられる装置を取り付けること。
3.原動機 高島式に搭載されていている原動機・0.508リットル以下の排気量の
原動機とする。
4.最高速度 15km毎時とする。
5.保安装置 警音器、前照灯、後写鏡、制動装置、後部反射鏡、方向指示器等を
備えつけること。
6.荷台 高島式に順ずる
※国の認可があるのは、現在高島式のみです。(高島式は現在販売しておりません)
※農民車に関しては、国の認可を受けていない以上、高島式以外の農民車については
現在ナンバーを発行しておりません。
さあて、ここで衝撃的な事実が判明しましたね。
高島AT80およびAT85なる農民車が、「農民車」として国の認可を受けていることが
明記されています。そしてさらに驚いたことに、高島式は現在販売されていないのです!
高島式農民車のことは後述することにして、○に農の字が入った
ナンバープレートが、農民車独自のナンバーなのでしょうか。
そしてそれは、、もはや入手することができないのでしょうか。
「スキ」が取り付けられる装置って、いったいどんなものなんでしょう。
興味は尽きませんねえ。
洲本市
農民車について、小型特殊自動車とする場合は
長さ4.70m以下・幅1.70m以下・高さ2.80m以下・最高速度15km/h以下となっており、
農民車で型式認定されているのは高島AT80型・85型で、
それに準ずるものになります。
なお、登録については市役所1階の税務課にて受け付けしております。
必要なものは印鑑と販売証明です。
その他、ご不明な点がございましたら税務課までご連絡ください。
洲本市では、ごく一般的に農業に使用するトラックのことを
農民車と解釈して、それを「小型特殊」で登録するか、
厳密に「農民車」として登録するかを分けているようです。
つまり、高島式の農民車でも小型特殊、あるいは大型特殊に
登録することが可能なようです。
○に農と、何もないナンバーが混在する理由がわかります。
緑 町
登録ナンバープレートは、住所地の町役場(又は市役所)の
税務課自動車税係において申告書を提出していただければ交付をうけることができます。
その際に、持参してもらうものとして
・印 鑑
・販売証明書
となっております。
構造等については、
・総排気量 1.5リットル以下
・長 さ 4.7メートル以下
・ 幅 1.7メートル以下
・高 さ 2.0メートル以下
・最高速度 15q/h以下
などが定められています。
ふたたびというか、まったく農民車自体については触れられていません。
しかし、私が「農民車のナンバー取得について」質問したので、
農民車はこの小型特殊車規定で取り扱っている、という
ことでしょう。
三原町
農民車の取り扱いについては次のとおりですのでご確認願います。
1.寸法 高島AT80、AT85の寸法範囲内であること。
AT80 長さ(m) 2.60
幅 (m) 1.20
高さ(m) 1.50
AT85 長さ(m) 3.31
幅 (m) 1.20
高さ(m) 1.50
2.作業機器 最小限度、田を耕作する「スキ」が取り付けられる装置を
取り付けること。
3.原動機 高島式に搭載されている原動機0.508g以下の排気量の
農耕用原動機とする。(搭載位置は前後問わない)
4.最高速度 15km毎時以下とする。
5.保安装置 警音器、前照灯、後写鏡、制動装置、後部反射鏡、
方向指示器等を備え付けること。
6.荷 台 高島式に準ずること。
国の認可があるのは現在、高島式のみです。(高島式は現在販売しておりません)
農民車に関しては、国の認可を受けていない以上、高島式以外の農民車に対しては
現在ナンバーを発行しておりません。(三原郡4町の協議で決定しております)
最後に(三原郡4町の協議で決定しております)との
括弧書きがありますが、三原郡4町とは、
緑町・三原町・西淡町・南淡町の4つです。しかし
前述のとおり、緑町の回答ではなにも触れられていないので、
あるいは担当者が協議のことを忘れていたのかもしれません。
高島式が国の認可を受けていること、その規格等は
五色町のものとほぼ同じですが、原動機の項に
(搭載位置は問わない)という
おもしろい記述が付加されています。
以下、西淡町と南淡町については同じ回答が予想されますが、
念のため問い合わせました。
西淡町
農民車の登録窓口は、役場税務課です。
印鑑と販売店が発行する販売証明書をご持参ください。
型式認定機種は、高島AT80型と高島AT85型となっています。
それ以外の農民車は登録できません。
なお、高島式農民車についての詳細は、税務課までお問い合わせください。
なんだかかなり簡単なものですが、ま、三原町と同じということでしょう。
南淡町
農民車の登録についてですが、
農民車(農業用特殊作業車)として登録できるのは
運輸省において形式認定をうけたものに限られるらしいです。
実際に認定されているのは、昭和40年代に製造されていた
高島式の2種類のみと聞いております。
したがって、今も昔も農民車でナンバー登録できるものはこの当時
製造されたこの2種類のみということになります。
登録については、お住まいの市町村役場の税務課で登録可能です。
登録手数料について、
農民車等の小型特殊特殊自動車の場合は無料です。
税金については、登録すると毎年軽自動車税
(農耕用小型特殊自動車の場合1600円)がかかります。
注意事項としまして、一度登録をすると
廃車届を出すまでずっと税金がかかることです。
こちらには、うっかり「農民車考」のHPアドレスを打ち込んでしまい、
私が農民車で変なサイトを作っているのが
バレてしまいました(苦笑)。
しかし、かえって担当者が好意を持ってくれたので
税金のことまで言及してくれています。
しかし、いったん登録をすると、廃車するまで
税金がかかってしまうのは意外でした。
私はどっかで「税金はかからない」と書いたおぼえが
ありますが、ここでお詫びして訂正いたします。
登録さえしなきゃ無料なんでしょうけど。
…………………………………………………………………………
さて、ここであらためて高島式農民車のことに戻ります。
その取扱説明書がこれです↓
おそらく1990年代も後半になってから印刷されたものだと思います。
というのは、ちょうどこのころ製造物責任法という、
商品に対するメーカーの責任が重くなる法律ができたからです。
奥付によると、株式会社 高島鉄工という
三原町八木にある鉄工所の製作で、内容はかなり微にいり細にいり
ことこまかく図解入りで解説されています。
表紙イラストには妙なプラスチックのカバーが前についていますが、
これは市販の農業用作業車から流用したものでしょう。
高島ファームカーというのは、まあ商品名でしょう。
仕様諸元も載っています。
AT80型:形式認定番号・農596号
車名および形式 高島AT80型
原動機の形式 クボタER65型
原動機総排気量 0.508l
製作会社
車 台 高 島 鉄 工
原動機 久保田鉄工株式会社
全 長 2.600m
全 幅 1.200m
全 高 1.500m
軸 距 1.200m
AT85型::形式認定番号・農597号
車名および形式 高島AT85型
原動機の形式 クボタER65型
原動機総排気量 0.508l
製作会社
車 台 高 島 鉄 工
原動機 久保田鉄工株式会社
車 両 重 量 780kg
最 高 速 度 14.800km/h
最小回転半径 5.000m
全 長 3.310m
全 幅 1.200m
全 高 1.500m
軸 距 1.910m
前照灯
VWまたは光度 6V25W
減光装置の有無 有り
タイヤ寸法
前 500-15 4プライ
後 600-15 6プライ
寸法(記述のママ)
種 類 ディーゼル
冷却方式サイクル 水冷4サイクル
シリンダ配置 横 1
最高出力 8ps 2200rpm
最高回転数 2200
尾 灯 無し
後部反射器 赤色反射器
方向指示器 点滅式
ブレーキ
最高速度時に置ける制動距離 3.500m
系 統 数 2
制 動 軸 後2輪
警音器 クラクション
後写鏡 凸面鏡(100×200)
連結装置 フック式
※本仕様は予告なく変更する場合があります。
こうしてみると、高島式農民車はおそろしく小型であることがよくわかります。
小型特殊車の
・総排気量 1.5リットル以下
・長 さ 4.7メートル以下
・ 幅 1.7メートル以下
・高 さ 2.0メートル以下
・最高速度 15q/h以下
という馬力と大きさよりも、はるかに小さいのは言うまでもなく、
現行の軽自動車の寸法と比べても
長さ 3.40m 幅 1.48mなので、とくにAT80型はふた周りほど
小さいと思います。軸距と全幅が同じ四輪車なんて、
直進安定性は恐ろしく悪いものでしょう。
見た目はかわいらしくていいんですけど。
高島式がいったいいつごろ運輸省に認定されたのか、たとえば
「AT80」という名前が1980年認定だからなのか、
そこは調べ切れませんでした。
しかしAT85は幾分大きくなっているので、これが
新式なのは、間違いないとみていいでしょう。
■この文章を更新しただいぶ後、おたけさんmailto:hfc02427@nifty.comから補足のメールが届きました■
農民車の認定された時期が解りました
昭和39年 農耕作業用軽自動車として認定を取得。
やはり耕作目的の軽自動車扱いですから、
トラクターなどの車種等に属する扱いでしょうね。
これより以後は、車種などの認定や更新は一切していないそうです。
昭和39年ということは1964年だから、やはり
西暦年号からつけた番号ではなかったようですね。
いったいなんの数字なんでしょう?
「淡路島農民車考」には高島式AT80およびAT85と思われる
fwf4×2の写真がいくつかありますが、
これらのうち、いったいどれが高島式なのか、
それともそっくりさんなのかは、残念ながらわかりません。
高島式のものには運輸省認定番号を記した銘盤が荷台左下の
車台に取り付けられていますが、それを確認しているゆとりが
撮影時にはなかったからです。
それに、エンジンにしても規定より小型小馬力であれば
問題はないでしょうから、
faf4×2のほうにも、あるいは
エンジン搭載位置が不問とあれば、それこそ全形式にわたって
混じっているかもしれません。
仮に、高島式の認定車へ○に農のナンバーがつけられていたとすると、
下の農民車とナンバーは高島式であると考えられます。
■240.930619.南淡町吹上
■241.
番号は合成してあります。相当痛んだプレートですが、
○に農の字が町名・県名とともに緑地に黒でプレスされています。
おそらく、ですがこの種のプレートは
農民車以外にはつけられることはないでしょう。
ちなみにエンジンはクボタではなくてヤンマーですね。
ナンバーは他に、
○に特・何もないもの・町名だけのもの・四桁の数字・上の両角を切ったもの等、
さまざまなものがあります。
登録の種類や登録した市町で異なるのでしょう。
ながくなりましたが、大森さんのメールを機に、今回法的にわかったことは、
正式に農民車として独自に認定されているものは
高島式AT80とAT85の二種類である、というのが
最大の収穫でありました。
高島鉄工の農民車には、他にも種類がありますが、
それはまた別の機会に紹介したい思います。
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