おたけさんの
「農民車カタログ」
農民車の歴史面やメカニックな分野でいつも適切な助言を
いただいているおたけさんから、またまた貴重な資料を
ご提供いただきました。
本HPが内容面で深く充実できるのも、おたけさんの
ご助力があってのこと、
いつもながらありがとうございます。
さて今回紹介させてもらうのは、
「続・法的農民車考」で、その存在が触れられた
高島鉄工製のAT80、およびAT85型農民車のカタログです。

これが表紙



「続・法的農民車考」で、おたけさんの記憶をもとに近野が描いたぞ想像図と
くらべてみると、なかなか近いものがあると思います。
操作レバーに続く延長棒は鉄の丸棒でなないかと思っていましたが、
カラー写真の農民車では鉄板が使われていたようです。
しかし、下の丸い白黒写真を見ると、延長軸は鉄パイプになっていますので、
鉄板では剛性不足だったか、あるいは二種類の延長軸があったのでしょうか。
その延長軸からさらに直角の軸を介して鋤に動作が伝わるようです。
それにしても、後輪にくっついてる赤い円盤はいったいなんでしょう。
これは近野の想像ですが、
この耕転鋤を確実に土壌へ食い込ませるためには、
ある程度の重量が車体後部に必要だったのでしょう。
この円盤はそのバラストの役割を持っていたのだと思います。
見るからに重量感のある円盤を、チェーンで脱着するのは骨が折れたでしょう。
荷台に重石を載せれば済むことだとは思いますが…。

農業合理化の新鋭機
けん引・駆動兼用型の理想的な農作業用小型
特殊自動車です。
特にタカシマ独自の合理的な設計を豊富に盛り
こんだ新しい機構で、日本中どんな土にもど
んな場所にもどんな作業にも抜群の活躍をいた
します。

という文章で、当時のオオゲサな表現が偲ばれます。

ご無沙汰してます
以前行方不明になっていた「AT85.80」カタログなんですが
どう探しても見つからないので、T鉄工の経営者の息子さんに「カタログ下さい」
こう言ったら、「もうないのと違うかな?」こう言われたのですが
1枚有ったので、デジカメで写真を写してきました

物がカタログという性質上、「この仕様は予告なく変更される場合がございます」
また、現在も製造している製品ではなく、すでに現鉄工所は現在休眠状態です

このカタログの印刷年月が書いてあり、昭和43年6月5日印刷とありました。


太字はおたけさんからの書き込みを、近野が再構成したものです。
カタログは二つ折りの四ページで、
表紙と裏表紙が四色印刷、
二ページと三ページは黒と橙色の二色印刷です。
タイトルの
高島ファームカー
AT.85*AT.80
の文字はたぶん書き文字で、当時の名もない鉄工所が作ったカタログとしては
上等のものだと思います。
高橋鉄工としても力がはいっていたんでしょうね。




T鉄工のF氏が並松を背景に作業している写真も載っていました。
この上側に写っているのがF氏(故人)であり
この農民車を製作した方です(経営者じゃないですよ)。


収穫物の取入作業
どんな悪路でも、もくもくと農村の
手不足にご協力出来ます。

…というキャプションがしめす写真に映ってるのが
F氏というわけです。
藁束を満載して畦道を進む農民車の雄姿!
しびれますねえ。

圃場内に於ける取入作業
柔軟な圃場や農道及び急な坂道でも、容易に運行
出来、驚異的な威力を発揮します。

…この引き抜かれた玉葱のすぐそばまで近寄って
玉葱をもって歩かず積み込める、という証拠写真は
かなり説得力があったでしょう。

防除及び潅水作業
お手持ち動力噴霧器をご利用され、お手軽に防除作
業や潅水作業が出来ます。

タンクの形状は違いますが、いまもこの状態で
薬剤散布をする姿はよく見かけられます。
鋤を操作するレバーはついたままですね。




AT80型に
ライムソワーを装着
酸性土壌を改良し、肥力を高める威力
を発揮します。又各種化学肥料散布に
も使用出来ます。

AT80型による
ボットムプラウ装着
最も小まわりができ、力強い荒起
が出来ます。

…AT80型は軸距と輪距が同じなようなのですが
やたら可愛らしいスタイルです。
急ブレーキをかけるとひっくり返りそうですね。
もっともそこまでスピードは出なかったでしょうが…。

AT85型により省力出来る
高性能防除用作業車
一台のエンヂンで駆動しながら同時
強力な散布が出来、省力とコスト低
を目標に大型化への道を歩む日本農
の現段階で最も適切な高性能防除用
業車です。

ページの端が切れていて読めませんが、
とにかくでかいタンクとポンプとホースリールがかなりの迫力を
醸し出しています。
今ではポンプはだいぶ小型化されていますし、ホースもここまで長いと
かえって扱いにくいのか、あまり大きなものは見かけません。
こんなものまで造っていたんですね。

諸元のほうも文字が細かすぎてわかりませんが、
こちらは「法的農民車考」に記載させてもらったものと
同一と思われます。
カタログのほうが項目が多いような気もしますが。



ボットムプラウに於ける
力強い荒起作業
10アール当り一時間余りで能率よく荒
起作業が出来ます。

…ここまで見ると、この耕運機タイプの農民車にも
かなりの期待をもって宣伝しているのがわかります。
おたけさんによると、後部に鋤を取り付けないと認可が下りなかったという
話ですが、それなりに本気ではあったようです。

AT85型による
酪農用尿撒布機
人も家畜ももう安心、山間地傾斜地も楽
々とし尿の運搬撒布ができ、又畑地の潅
水にも威力を発揮します。
(真空式ポンプ使用)
AT85型…800L
AT80型…500L

「淡路島農民車考」では、この型の農民車を
バキューム車と呼んできましたが、
こんな正式(?)名称があったんですね。
酪農用尿撒布機……。
見事なネーミングです。
思いつきもしませんでした。
しかしいまさら変えるのも面倒なので、
本編ではバキューム車でいかせていただきます。


すべての写真を見ましたが、どの車体にも運輸省認定番号の銘板が見当たりません。
「続・法的農民車考」で近野が提示した写真には
銘板がつけてありますので、発売当初はつける必要がなかったのでしょうか。

話はそれますが、昔の風景はやはりのどかですね。
うっすらと撮影場所が思い浮かびますが、おたけさんからの情報では、
表紙写真は淡路島牧場付近のようです。
建造物がなにもない風景は、まるで北海道のようでさえあります。
いまでも田舎は田舎なんですけど、日本全体の都会度が上がったんでしょうね…。





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